胃の検査から得た発想
(前の日記からのつづき)
K先生は水以上に効果的なものは無いかと考えていた。勿論、放射線を遮るには鉛の壁が最も効果的だが、鉛は最近電子機器でRohs云々と規制されているように、人体に有害である。
放射線を遮るには、大体、質量数の大きな元素が適している。だがそう言う元素は大抵、人間には毒性があるものだ。
だがK先生は健康診断で飲まされる「バリウム」に目をつけた。
正式には硫酸バリウム。レントゲンの放射線を通しにくいので、胃の検査の時に造影剤として使われる。と言う事は、ガンマ線も通しにくいかも知れない。
実際には硫酸バリウムの粉末をPETボトルに詰めるのは難しかったという。砂のようなもので、どうしても微細な空気が入って密に詰まらない。そこで水を加えて溶かし、沈澱させて乾燥させる、それからまた追加する、といった事を繰り返して、最も密に詰めた場合の3分の2くらいの重量まで詰め込んだという。それを6本背負って試験場に赴き、厳密な透過線量を測定したというのである。
結果、そのくらいに詰めれば水の約2倍の効果があることがわかった。理論値では3倍近いようなのだが、やはり詰める密度にも限度がある。家庭でも出来る方法でなければ使えない。
この結果が良かったので、また東北に行って提案するのだという。
硫酸バリウムは安い。壁塗りの塗料などにも含まれている白色の成分だ。トン単位だともっと安く買える。それなら自治体や役所などでまとめ買いして各家庭で詰めて使うことができる。
(安いからこそあの古くさい苦しい検査法が未だに使われているわけだ)
K先生は言う。この際責任云々だとか言っても何も意味はない。むしろ現場レベルで何をどう出来るのかを見出し、実行してゆく事こそ最重要だと。
僕は思う。責任をとろうとしない電力会社や、動きの遅い政府役人らには任せておけない。我々は、放射性廃棄物の処理方法も確立しないまま危険な原子力に手をだし推進してきたツケを、一人一人が支払わなければならなくなった。誰を責めても何も解決しないのだ。こうした身近な、可能な努力こそが、今こそ誰にも求められているのではないか。